Otyken(オティケン、OH-too-kyen)というシベリアのグループがいる。このコンテンポラリーバンドと呼ぶべきか、古の音楽、はたまたそのルネサンスと受け取るか表現が難しい。ひとつわかっていることはとにかくカッコいい。
この「LEGEND」という曲は2022年のグラミーでもノミネートされた。聞いたことのないような言葉、ワンコードでの楽曲構成、物珍しい楽器の数々。世界には数えきれない程音楽文化がある。いわゆる民族音楽というものが無数に存在している中でもこのグループが世界中に知れ渡った理由は、現代的なアレンジに恐ろしい程マッチさせているところだ。
このバンドの成り立ちを説明するのは、聞き慣れない民族や地域の話が出てくるため結構難しい。まずバンド名OtykenはChulym語(チュリム語)で戦士が武器を置いて話す聖地、つまり仲間とか友情とか連帯感を意味するそうだ。Chulym族が極めて絶滅寸前の民族であるため、もともとはプロデューサーAndrey Medonosによる民間伝承や伝統、歌を保存する活動から始まった。メンバーはChulym族、Ket族、Khakas族、Dolgan族とSelkup族ら多数の民族から結成されている。もともと過酷な環境なため、夏場は自分たちの生活を維持するべく村で働いているようだ。そして、冬にライブ活動を行うサイクルということだ。生活があるためメンバーチェンジも多いが、その伝統的な音楽を維持している。そんな中で2021年のアルバム「Kykakacha」で世界の注目を集めることになった。2022年には前述の「LEGEND」がグラミーにノミネートされるなど、世界的な活躍が期待されたが、この記事を書いている2023年11月現在ロシアは西側諸国と対立した状態になっている。そのため2022ワールドカップ・カタール大会への出演やアメリカでの公演を予定していたものの中止となっている。非常に残念である。そろそろこのあたりで他の楽曲も紹介したい。2021年のアルバムのタイトルでもある「Kykakacha」をどうぞ。
声が二重になるホーミーや口でビャンビャンならす口琴など物珍しい演奏方法で前述のとおりワンコード、そこへEDMアレンジを加えると不思議な音楽が出来上がる。シベリアの大草原の雄大さと真冬の極寒の地を生き抜く熱量を持った音楽は、初期衝動に近いように感じる。何かこちらに訴えかけたい強いものがあるのだ。説明ばかりではつまらない。次は「PHENOMENON」と言う曲を。雄大さを強く感じる楽曲だ。
彼女らが訴えかけたいものは何か?冒頭でも少し触れたが、少数民族の文化の継承である。マイノリティの叫びでありながら現代音楽、つまりマジョリティを取り込んだ未来の可能性のための融合だ。取り込まれてしまう恐怖よりも、アイデンティティを信じた結果だと思う。多様性の問題や戦争がもたらす運命等、このグループには今世界の皆が考えなければいけないことが詰め込まれているのではないかと感じてしまう。
まだまだ知っていただきたいところだが、楽しみはとっておきたい。この記事をきっかけに是非Otykenを聞いてもらえればと思う。私も最初よくわからなかった。故に異質な印象を受け、言い方は悪いが少し気味が悪かった。しかし、いくつか音楽を聞いて、その何とも言えない奥深さに「この音楽すごい」と怪物級の才能を感じた。そして、その背景を知ったとき更なる可能性も感じた。最後は私が好きな楽曲「STORM」。極寒の地にこだまする彼女たちの叫びをご一聴。