8月に入り全国各地で花火大会が開かれている。今回はそんな花火の音楽について考えてみたい。桜ソング同様季節を代表するテーマのひとつだ。
と、少し考えてみたら気が付いたのだが、花火ソングは意外と歴史が浅いのではないか?ということだ。確かに夏の歌のテーマとして長年「祭り」がその代名詞ではあった。花火はその祭りで行われるプログラムのひとつとして捉えがちなのかも知れない。しかし、「〇〇川花火大会」など完全に花火が主役のものもある。昔からメインどころでもあるかと思う。だけれども昔から歌い続けられる有名な花火の曲というのは私の知見不足だけかも知れないが、あまり耳にしない。
少し調べてみたが「花火」という歌があった。文部省唱歌で昭和10年代に作られたそうだ。作曲は「ゆうやけこやけ」を手がけた下総皖一さんという方だ。しばらく時代がくだり1976年にこちらの花火ソングが登場した。
さだまさしさんの「線香花火」という曲だ。花火といっても打ち上げ花火ではなく、線香花火がクローズアップされているあたりが切ないフォークソングミュージックらしい。日本人の感性は「どかーん!」と派手な瞬間よりもその後の残響に趣を感じるように出来ているのだろうか。線香花火の儚さに思いを寄せたりもしている。
さて、花火ソングの話を続けよう。時代はまた一気にこちらに近づいてくる。1999年の夏に登場したのは40代オーバーにとって最大の花火ソング、aikoの「花火」だ。私の世代にとって最強の花火ソングと言っても過言ではない。折角なのでこの曲今回の話を詳しく紐解いて見たい。
メジャー3作目のシングルで1999年8月4日に発売された。2枚目のシングル「ナキ・ムシ」で衝撃を受けた私が、赤いコロコロが入ったマキシシングルを手に取ったのはいうまでもない。今回調べていて知ったのだが、この「赤いコロコロ」というのは匂い玉で、赤・青・緑・白・黄と5種類もあったのだ。初回限定盤のみ入っているが、これが今中古市場で高値で取引されていることに驚いた。
この曲の面白いところはオリコンチャートの最高位は10位だったというところだ。「花火」と言えばaikoを代表する曲だし、もっと売れていたイメージがあるが意外にシングルは1位を取っていない。ちなみにシングルでオリコンチャート1位を獲得するのはデビューしてから10年以上経った2009年「milk/嘆きのキス」だった。
さて、「花火」の歌詞について。このサビの歌詞は未来に語り継ぐべき名歌詞である。その部分に限らずこの曲は恐ろしい程「あの夏」を思い出させてくれるワードが散りばめられている。少しずつ見ていきたい。
眠りにつくかつかないか
シーツの中の瞬間はいつも
あなたの事考えてて
こんな歌詞から始まること曲はパッと恋愛ソングを想定させる。ありきたりなワードと言えばそうかも知れないが少しずつ独特な表現方法に引き込まれ始めるのは次のフレーズだ。
夢は夢で目が覚めれば
ひどく悲しいものです
花火は今日もあがらない
急に「です」と誰かに説明しているかのようだ。そして花火があがらないのはなぜ?
もやがかかった影のある形ないものに全て
あずけることは出来ない
不思議な表現が続き恋愛ソングの雰囲気がやんわり消えていく。しかし、この後の歌詞で「三角の目をした羽根ある天使」が恋の知らせを聞いてやってきた。そしてひと言。
「疲れてるんならやめれば?」
助けるどころかあきらめを促している。もしかしたらこの「天使」は結末を知っているのかも知れない。可哀想だと思ったのかどうかわからないがサビへと続く。
夏の星座にぶらさがって
上から花火を見下ろして
こんなに好きなんです
仕方ないんです
夏の星座にぶらさがって
上から花火を見下ろして
涙を落として火を消した
この歌詞は誰もが気が付きにくい、しかしながら誰もがイメージしやすいキラーフレーズである。今でこそ花火はドローンで横から見る時代だが、花火は皆下から見るものだった。でもaikoは上から、しかもかなり上にある星空からの視点である。突拍子もない表現のようだが、そのロマンチックさは誰もが納得出来た。そしてここでも「です」。誰かに説明しているのだが先程の天使だろうか。そして、涙を落としたのは切なさからだろうか、はたまたバッドエンドだからだろうか。
そろったつま先くずれた砂山
かじったリンゴの跡に
残るものは思い出のかけら
なんかシンプルにモノで思い出を表現しているのが等身大のaikoらしく感じてしまう。また、このメロディやリズムによって場面が次々とパッパッと切り替わる言葉の連続は、まるで打ち上げ花火のようだ。そのあと、またもや天使に声をかけられる。
「一度や二度は転んでみれば」
やはり天使はバッドエンドを知っているのだ。でもこの天使は自分が生み出しているアドバイザーでもある。つまり、自分でも恋が成就しないことに気付いているのだろう。そして、2番のサビへと繋がる。
夏の星座にぶらさがって
上から花火を見下ろして
たしかに好きなんです
もどれないんです
夏の星座にぶらさがって
上から花火を見下ろして
最後の残り火に手をふった
ここでも結末を示唆しているようだ。「もどれないんです」と言ったり、もう覚悟を決めたような決めかねているような。
赤や緑の菊の花びら
指さして思う事は
ただ1つだけ
そう1つだけど
菊を花火に見立てているが、この部分がやたらと星座から花火を見ている感じが出ている。実際に菊の花びらを見るのも下向きだろうし、意外に面白い比喩だと思った。そして、この楽曲全体に感じるのは不思議と花火みたいにドカンと一発ぶち当たってみるという印象はない。どこかモヤモヤしたようなはっきりとしないような印象を受ける。
花火は消えない
涙も枯れない
涙が枯れないのは何となく想像出来るが、花火が消えないとはどういうことか?やはり実らないとわかっていても「あなた」への思いが消えないことを表現しているのか。と、様々なことに思いをめぐらし、この名曲を紐解く話は終わりにしたい。
と、ここまで珍しく歌詞をクローズアップしてみた。メロディは素晴らしいことはもちろんだが、歌詞の秀逸さも気になる楽曲。この記事を書き上げたのは「花火」がリリースされてからちょうど25年後の8月4日というのも何かの導きかも知れない。花火の話で始まった今回の話、最後に「花火」のMVをご覧いただきたい。歌詞の解釈は人それぞれだと思うので、皆さんの思いでご一聴を。