今回は活動期間がわずか5年バンドの話。しかし個人的にも、またその界隈でも印象的なバンドだった。そのバンド名は「SOFTBALL」。
さて、今回の話はこのSOFTBALLのメジャーでのフルアルバム「Lamp」と「八紘一宇」のこと。これまで考察と銘打ったシリーズは1枚ずつ紹介してきた。しかし、今回はこれまでと違いこの2枚を並べながら、現代から見えるこのアルバムの形を探ってみたい。今回も同様、名盤考察とは大それたものではないが、紐解いていければよいと思う。
とは言え、このSOFTBALLを語るうえでこの他に外せない2枚がある。1stミニアルバム「水母」と1stフルアルバム「天空」の2枚だ。
SOFTBALLはこの2枚からその躍進が始まったと言える。私もこの「天空」に収録されている「Things」という曲を聞いてこのバンドを知った。どこかチープな感じのつくりだが、キャッチーなメロディとガールズボーカルが印象的だった。併せてどこか鬱屈したような気怠さと歌詞も耳に残った。この2枚をインディーズシーンでヒットさせた彼女たちは、ガールズパンクバンドの時代を作っていき、その先頭を突っ走るのではないかと思わせた。その流れか否かメジャーレーベルと契約し、その後今回の2枚へと続いていくのであった。
まずは「Lamp」の曲順を並べてみたい。
Lamp(2002年1月17日発売)
1.REMEMBER THE HILL
2.REVIVE
3.DODGE
4.TROOP
5.ANSWER
6.JUST TRY IT
7.UNPLEASANT
8.NO CONTROL
9.HEAVENLY
10.0228
11.VANITY
続いて「八紘一宇」の曲順を並べてみたい。
八紘一宇(2003年1月16日発売)
1.SHEENA IS THE MISSILLE
2.PROSTRATE
3.HISTORY
4.NO FALL BACK
5.POLITICS
6.MOMENT
7.IGNITE
8.故郷の空
9.VANITY GROUND
10.LEAPER
11.童部 -WARAWABE
12.WHERE IS THE CRIME (Res Heads) (BONUS TRACK)
13.TOKOSHIENI (FRENZAL RHOMB) (BONUS TRACK)
シングルでリリースされている楽曲が多いということはわかるが、曲順等並べてみて思いつくことはあまり無さそうだ。ちなみにオリコン最高位は「Lamp」が20位、「八紘一宇」は32位とまずまずセールス的には順調だったようだ。しかし、レコード会社的にはどうだったかと言えば微妙だと考えられる。同時期の人気インディーズバンドがメジャーレーベルで流通させたり、インディーズのまま成功を収めるケースがいくつかあったからだ。BUMP OF CHICKEN、SNAIL RAMPやBRAHMAN、そしてHi-STANDARDやBEAT CRUSADERS等彼らのように爆発的にヒットする可能性は十分にあった。
当時メジャーレコード会社各社でSOFTBALLの契約争奪戦になったと言われている。最終的に彼女たちが選んだのはavexのレーベルであるcutting edge。何故そこを選んだのか?という問いの答えが「1番契約したくなかったから」だと言われている。パンクスなのかただの天邪鬼なのか、今となってはわからないことだ。とは言えセールスが全てではないが、cutting edgeとメジャー契約したということはその点も要求されると考えられる。特に「八紘一宇」に関しては過激な一面も含んでおり、表現の自由とは言えレコード会社としても慎重になったのではないかと思われる。
台湾ライブの際旭日旗を振り回して登場したり、「エセ愛国心」「ファッションパンク」なんて当時も揶揄されたこともあった。若かった彼女たちなりの愛国心だったのか、はたまた純粋に特攻隊への同情心だったのか。また彼女らなりに当時の政府へ対する反発心、パンクだったのか。そもそもパンクは反体制、左翼的位置付けになる。その立ち位置からの主義主張だ。その対象となる相手が現存しているからこそ、「今」の抗う熱量が生まれやすいのだと思う。なのでかつての体制に反発したところで抗う相手がいない状況では熱量のやり場がない。結果として局地的に熱量は膨れ上がるが、ぶつける先がないとそれはただの怒りでしかなくなる。そう考えてみれば、自分たちと近い年齢もしくは年下の青年が特攻隊として夢半ばにして散っていった思いを届けたかっただけのかも知れない。のちの「秋茜-AKIAKANE-」としてギターボーカルのMOEは再活動し、SOFTBALLでやりたかった大和魂と呼ぶべきか日本の精神を表現したかったのかもしれない。
私個人の考えでは、彼女たちは特攻隊で見えてきた日本人としてのアイデンティティを叫んでいたと思われる。というかそのままだが、やはりパンクやロックとしての反発の精神というよりも、自分たちの血や文化を特攻隊を通して日本人が忘れかけていたアイデンティティを強く感じたのではないか。そして、その気持ちを声高に叫んでいた。
戦争をテーマにした部分を見せ始めたのは「Lamp」の1曲目「REMEMBER THE HILL 」、9曲目「HEAVENLY」や10曲目の「0228」である。それまでは怒りや悲しみ、俯いたり殻に閉じこもったりとネガティブな感情をパンクな形で抗って表現していた。ところが急に過去の戦争の世界観を作り始めた。その後「八紘一宇」ではあからさまに戦争に対する楽曲であふれた。サウンド自体も激しさを見せながらもポップさ際立つ「Lamp」に対して、メロディアスながら歪んだ轟音を響かせる「八紘一宇」。この2枚のアルバムで表現されているこの雰囲気を現在から見てみると自然な流れだったのかも知れない。
彼女たちの音楽的主張が通ったのか、レコード会社の狙いなのかは定かではないが「戦争色」が濃くなり、離れるファンがいる一方でコアなファンも増加した。たらればになるが、場合によってはピストルズのような刹那の破壊力で若者の社会現象になってもおかしくはなかった。だがこの「Lamp」がリリースされた2002年は、サッカーのワールドカップが行われたり、北朝鮮の拉致に関する謝罪だったりとどちらかと言うと外交的には融和ムードが広がっていた。あえて寝た子を起こすなという雰囲気があったかどうか定かではないが、時代が後押ししてくれる様子は少なかったのかも知れない。
今でも世界のいくつかの場所で悲惨な戦争は起こっている。彼女たちSOFTBALLがこの世界を見て、音楽活動を続けていたならどう思っただろう?過去に音楽で戦争反対を訴えて戦争が止まったことはない。ベトナム戦争だって、アフガンだって音楽が止めたわけでも民衆が集まって止めたわけでもない。だけど人々にはJohn Lennon(ジョン・レノン)の歌声は平和の象徴として心に刻まれている。それは、前述したようにリアルタイムで起こっていたことだから人々の記憶に残りやすかったからだろう。SOFTBALLは戦争の当事国ではないし、悪く言えば時代錯誤だったのかも知れない。しかし、平和ボケに対する警鐘を鳴らしていたと考えればわからなくもない。
そんなことに思いを巡らし私なりに思ったことは、彼女たちの戦争に対するメロディや歌声が過去のものにならないようこれからも聞き続けたい。純粋に良い音楽だ。またそれは懐古主義という点でも十分表現されたアルバムだ。日本の古き良き風景を大事にする楽曲も多く収録されている。「Lamp」では「REVIVE」、「八紘一宇」でも「故郷の空」や「童部 -WARAWABE」でもその原風景を思い出す曲を彼女たちなりの解釈で奏でている。やはり、どうしても特攻隊員の手記から導かれた望郷の想いを歌にしていると考えられる。思想がどうこうと言う意見もあるが、当時の若者も今と同じように悩みながらも安らぎを探していたのは間違いないと思う。正義は逆転するものだが、故郷へ想いを馳せるのは今も昔も敵も味方も関係ないことだと思う。そのあたりを汲み取った彼女たちの楽曲の美しさに今一度聴き入ってみたくなる。
今回の記事ではアルバムの中身、楽曲はあえて深掘りしなかった。具体的な内容にはあまり触れていないが、このアルバムの全体的な印象と背景をご理解いただきたく、実際に手に取る機会があれば是非聞いていただきたい。
私のブログは音楽に触れる「きっかけ」を作り出すために日々記している。今回の話でSOFTBALLの「Lamp」と「八紘一宇」を1回聞いてみようと思って頂ければこの上ない。