音楽好きの今の話と昔の話

普段目についた音楽について何となく語ります。

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私的名盤考察「SOULS」

西暦2000年前後に表舞台に飛び出してきたたインディーズシーンのメロコアバンドたちは数多く存在した。ミレニアムバンドと呼ぶべき世代になるだろうこのバンドたち。憧れのバンドはもちろんハイスタことHi-STANDARDだ。

ANGRY FIST

ANGRY FIST

  • TOY'S FACTORY
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この世代のアンセム的名盤「ANGRY FIST」から「MAKING THE ROAD」の流れは、メロコアバンドに多大な影響を残したと同時にインディーズシーンの形まで大きく変化させた。アンダーグラウンドのシーンであったこのジャンルに光を当てさせた「PIZZA OF DEATH RECORDS」は現在ではでSATANIC CARNIVALを主催し、インディーズシーンに光を浴びせ続けている。紆余曲折を経てその光源を掴み取ったのだ。そんなフェスに2023年の今年も出演しているバンドのアルバムの話がしたい。

そのバンドの名前は「HAWAIIAN6」。バンド名の由来は「たまたま」着ていたTシャツに「HAWAIIAN」と書かれていたことと、男3人組で「たまたま」が6個と意外とくだらない理由から始まったスリーピースバンド。彼らの1stフルアルバムはPIZZA OF DEATH RECORDSからリリースされることになった。ハイスタのコピーバンドから始まったこのバンドがPIZZA OF DEATH RECORDSからリリースするということは、一種の夢が叶ったようなものだ。そのアルバムは「SOULS」というタイトルからスピリチュアルなものを感じるし、サウンド自体「たましい」の叫びを感じる。歌詞も確かに深すぎるほど哲学的だ。思い悩む人間がこの一枚を聞けばほぼ確実にこのアルバムの世界観に惹き込まれてしまうのではないかと思える程重い。

 

まずは概要から。リリースされたのは2002年8月7日でプロデュースはハイスタの横山健さん。全14曲の曲目を並べてみよう。

01. LIGHT AND SHADOW
02. AN APPLE OF DISCHORD
03. THE BLACK CROWS LULLABY
04. ETERNAL WISH, TWINKLE STAR
05. FLOWER
06. MY UNIVERSE
07. TINY SOUL
08. YOUR SONG
09. CHURCH
10. AUTUMN LEAVES
11. PROMISE
12. HEARTBEAT SYMPHONY
13. DISTANCE
14. A LOVE SONG

タイトルだけでは詳しい世界観が読み取りにくいが、宗教的なイメージやスピリチュアルなところもあり、星にまつわるワードも見かけられる。哀愁漂う激渋高速メロディックハードコアな感じだが、結構胸キュンソングもある。いや、どちらかというとそちらのニュアンスが個人的には強い。そんなビター&スウィートな1枚を考察とは大それているが、今の時代から見えてきたことを紐解いて考えてみたいと思う。

このアルバムを語るうえでHAWAIIAN6本人たちには関係のない話だが、個人的にエピソードがいくつかついて回る。そのエピソードのひとつは私が若かりしCD屋にいた頃まで遡る。勤め出して1年くらい経過したこの頃、ようやく私もインディーズあたりのCDに関して口出し出来るようになっていた。そして待望の1stフルアルバムが出るということを知り、これは売れると踏んだ私は、多めの在庫発注を上司に依頼した。ちなみに前年の同じころモンパチの2nd「MESSAGE」がリリースされた。その際、入社してすぐの私が「発注数のゼロが一桁足りない」と偉そうな提言をし、爆発的に売れた。私のインディーズに対する信頼度は一気に高まり、「SOULS」発売前の頃には一目置いてくれるようになっていた。上申していた為、たくさんの「SOULS」が入荷してきた。しかし、やはり現実は甘くない。あくまで私個人の思い入れが強いだけであって、その店舗の市場や客層に全く合っていなかったのだ。さてどうしたものか、と思った私はひたすら熱い売り文句を並べたポップを作った記憶が残っている。最終的には何とかなったのはこのバンドの力であることで間違いないと思う。調子に乗るなと言う教訓を得たエピソードだった。

前置きが長くなってしまった。さて、ジャケットから見えてくるのは、なかなか意味を持った1枚なのではないかと。このジャケットはスペインの画家エル・グレコの「羊飼いの礼拝」と言う作品だ。17世紀の初頭に描かれたこの作品はエル・グレコ晩年の名作で、若い頃から何回か挑戦してきたテーマの絵だ。詳細が気になるという方は以下リンクを貼っているのでそちらでご覧いただきたい。

この「羊飼いの礼拝」とはなんぞや?と言う方に簡単に説明すると「イエス様が生まれたことをみんなに伝えてね」、という寸前の構図である。つまり「SOULS」を世の中の人たちにお披露目するよ、という意味を持つのだろう。この後リリースされた2ndミニアルバム「ACROSS THE ENDING」のジャケットもアダムとイヴであり、この頃は宗教的な印象が強い。

さて、このバンドの持つ哀愁感はどこからくるのだろうか?このアルバムが出る2年程前にリリースされた1stミニアルバム「FANTASY」で私はこのバンドの虜になってしまったのだが、このときのからこのメロディラインは独特な哀愁を帯びている。面白いのはうつむきながら程マイナーコードを多用して、歌詞は「絶望するな!お前らの目の前は希望だらけ。後悔しないように今やれよ!」なものが多い。これはこの「SOULS」においても終始そのメッセージ性を感じる。歌謡曲+パンク+宗教的世界観が詰め込まれたこのアルバムをもう少し紐解いてみたい。

3曲目「THE BLACK CROWS LULLABY」も歌詞の世界観は非常に興味深い。恐ろしいほどの絶望感の中、父へ宛てた強い意志。主人公の信念をあざ笑う世間の目。タイトルも「カラスの子守歌」なんてどこか皮肉めいている。そして、その世界観を表現するにふさわしいメロディ。このアルバムを象徴する曲のひとつと言える。

この「SOULS」が発売して、しばらく経ったころ人生を考えさせられるエピソードがもうひとつ生まれた。そのエピソードより少し遡るが、学生時代に音楽の趣味を通じて東京に友人(友人Aとしよう)が出来た。本当にたまたま知り合ったのたが、同じ学年ということもありすぐに意気投合した。当時関西圏に住んでいた私は定期的にその友人Aをたまに関西に呼んで私の周りの友人も巻き込んで一緒に遊んだりとなかなかリア充なことをしていた。観光したり、学祭の時期に呼んで一緒に楽しんでいた。こちらは関西の三流大学だったが、友人Aは誰もが知る東京の有名大学。音楽の他にたまたま同じ学科という共通点もあり私の友人ともすぐに溶け込んでいた。少し天然なところもあったが、人懐っこい性格で年に数回遊びに来てくれた。就職も早い段階で決まったようで、これまた誰もが知る一部上場メーカーの内定をあっさり獲得していた。就職氷河期と言われる世代だったので、嬉しそうに報告してくれたそんな友人Aが私からしても誇らしかった。

大学を卒業後、しばらく経って友人Aと共通の友人(友人B)から突然と連絡があり、「Aがビルから飛び降りた」と。憔悴しきった声は今でも覚えている。私もドラマや映画でしか見たことがないシーンだったし、「なんで?」と「無事か?」とかよくわからないことを聞いてしまった。考えてみれば、普通は助からないだろう。だけど現実味が無かったのでそんな返ししか出来なかったんだと思う。結局友人Aは自ら命を絶ったのだ。

半年以上は連絡をとっていなかったと思う。その間社会人として頑張っていたようだが、人間関係につまづいたようだ。確かに気難しい一面もあったみたいだが、私と遊んでいるときはそんなそぶりを見せることもなかった。そんな嘘みたいな本当の電話がかかってきて切った直後CDコンポで再生したのが「SOULS」の5曲目「FLOWER」だった。この曲の歌詞とメロディがめちゃくちゃ沁みた。

 

Life is very short and very steep.

And I walk hard.

Try and try and try to do the best.

I don't want regret.

 

人生は短く険しい。

だから一生懸命、歩く。

最善を尽くす。

後悔したくないから。


歌詞はこれで締めくくられており、なんかベタな感じに聞こえるかも知れないが、友人の死を目の当たりにしてこの歌詞は若い私の心に刻みつけるには十分だった。決してAの決断を否定する意味でこの歌詞を称賛する訳ではなく、単純に人生は何があるかわからないし、自分も同じ状況に陥ってしまった場合、後悔してしまうのか?と、様々な思いが頭を駆け巡った。彼は遠方だということと、当時の私は急に動けるほど時間や経済的に余裕がなかったため、近くにいた友人たちと共同で香典を送ったと記憶している。また、Aとの関係は非常に奇妙な間柄であったため、いつかこの話もこのブログで書いてみたいと思っている。

どれくらい経ったかは忘れたが、その後とある女性と会うことがあった。それは友人Aの彼女「だった」人。Aの生前1度だけ会ったことがあり、清楚な感じの女性だった。どういった経緯で再会したのかは覚えてないが、Aの生前の知り合いに会って回っているようで、関西に来ていたときに会った。大した知り合いでもないので特に話すこともなく、彼女も親族として参列していた訳ではないだろうし、今どうなのかなんて状況的に聞ける訳ない。葬儀に参列出来なかったことのお詫びくらいしか話せなかった。とりあえずは立ち直れたみたいことは言っていたが、それは気丈に振る舞っているだけなのかもしれなかった。とにかくその時の彼女の表情は謎で読み取れず、なんとも言えない表情だったのをいまだに覚えている。当時の私はそんな彼女に何を思ったかこの「SOULS」を渡したのだ。それ以来会ったことも連絡を取ったこともないので、薬になったのか毒になったのか今となっては知る術がないためわからない。

だいぶ話が横道に逸れてしまったが、これほどまでに人を考えさせる音楽が詰め込まれているアルバムということだ。この「FLOWER」や、16曲目の「A LOVE SONG」のように人生最期の日の為ににどうすごすか、といった死生観を思わせるような歌詞も印象的だ。彼らは宗教的側面を見せることはなかったようだが、パンク・メロコアによく見られる初期衝動とは違い、深く悩んだ末の達観した世界観を若くして表現している。

このアルバムがリリースされて20年。彼ら自身どんな気持ちでこの作品を捉えているのだろうか。この記事を書きながらそんなことを思っていたが、結局自分の訳のわからない話が長くなってしまった。とは言え2016年に憧れの舞台であったAIR JAMのステージに立ったときは、やり切った思いがあったようだ。しかし、目の前にあったのは憧れのハイスタの再スタート。そして振り返ってみたら、後ろには自分たち「HAWAIIAN6」を追いかけてきたバンドがたくさんいた。それからもう7年の月日が経ったが彼らはまだ走り続けている。その彼らの「SOULS」を聞いて良いアルバムだなと聞いてブログを書く人間がいる。それくらい印象的な作品だということを皆さんに伝えたい。このアルバムの全曲解説をしようと思ったが、この段階で随分長ったらしくなってしまったのでこの辺りにしたい。

私のブログは音楽に触れる「きっかけ」を作り出すために日々記している。今回の話でHAWAIIAN6の「SOULS」を1回聞いてみようと思って頂ければこの上ない。