音楽好きの今の話と昔の話

普段目についた音楽について何となく語ります。

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6月5日は「落語の日」。出囃子の「生セッション感」の話


突然だが、今日6月5日が何の日か知っているだろうか。
そう、「ろ(6)く(5)ご」の語呂合わせで「落語の日」らしい。
歳を重ねるごとに「人の巧い話」や「ウィットに富んだ会話」の面白さが染みるようになって久しい。落語の世界も、ちゃんと分かるようになったら絶対に底なしに面白いんだろうな、と思いつつも、結局どこから手をつけていいか分からず今日までスルーしてきた。
しかし、ここは音楽ブログだ。
落語そのものには詳しくなくても、音楽的なアプローチからなら、この「落語の日」に便乗できるのではないか?
そこで、落語ド素人の私が、ずっと心の隅で気になっていた「あの音楽」について、音楽フリークの視点で少し掘り下げてみることにした。
寄席(よせ)で落語家が高座に上がる時に流れている、あの独特の和楽器BGM。
そう、「出囃子(でばやし)」だ。
ぶっちゃけ「入場曲」だということくらいは知っていた、が……
音楽好きを自称する身として、さすがに「出囃子」が落語家のテーマソング、いわゆる「入場曲」であることくらいは知識として知っていた。
現代のエンタメで例えるなら、プロレスラーの「入場曲」や、プロ野球選手の「登場曲」、ロックバンドがステージに現れる時の「SE(サウンドエフェクト)」と完全に同じシステムだ。自分がこれから喋る高座の空気を作り、自分というキャラクターを10秒そこらのイントロで客席に提示するために、こだわりの1曲を背負って現れる。
調べてみると、この出囃子を持つことが許されるのは「二つ目(ふたつめ)」という階級以上の落語家からだそうだ。前座(ぜんざ)という修業時代を終え、一人前の落語家としてスタートラインに立つ瞬間に、初めて自分のテーマソングが与えられる。
しかも近年では、この二つ目に昇進するタイミングで、落語家の側から「この曲を出囃子にしたい」とリクエストすることも多いらしい。これって、インディーズからステップアップして「さあ、俺の音楽で勝負していくぞ」と、自分のアイデンティティを曲に託す若手ミュージシャンの姿にそっくりで、がぜん胸が熱くなる。
だが、落語をほとんど見たことがない人間の耳には、ぶっちゃけこう聞こえてしまうのも事実だった。
「システムは分かった。でも、テンテケテンテン、ピーヒャララ……って、なんか毎回どれも同じような曲に聞こえない?」
パンク・ロックを聴かない人が「全部同じ曲に聞こえる」と言うのと同じ現象だ。実際にその歴史やバリエーション、楽屋裏のリアルな運用を調べてみたら、私の想像を遥かに超えてディープで音楽的な世界が広がっていた。
出囃子の元ネタは「長唄」から「アニソン・特撮」まで!
出囃子の構成楽器は、主に三味線、笛(篠笛)、太鼓、当り鉦(かね)などで統一されている。だからこそ同じように聞こえるのだが、そのメロディのルーツ(元ネタ)は驚くほど多岐にわたり、本人の雰囲気や芸風に合わせて選ばれている。
レペゼン地元系:林家こん平の『佐渡おけさ』(出身地・新潟の民謡)
セルフカバー系:月亭方正の『ヤマザキ一番』(自身が昔歌っていたコミックソング)
オリジナル楽曲:春風亭小朝が弟子(蝶花楼桃花など)のために作曲したオリジナル出囃子
さらに面白いのが、「演じる演目(セットリスト)に合わせて出囃子を変える」という、音楽ライブさながらの演出を行う落語家もいることだ。
たとえば、林家たい平は「ドラ落語」をやる時は『ドラえもんのうた』にスイッチする。柳家喬太郎にいたっては、ウルトラマンが題材の落語の時は『ウルトラマンの歌』、自作の新作落語の時は『東京ホテトル音頭』へと出囃子を文字通り「着替える」のだという。この遊び心、完全にロックマインドじゃないか。
音楽ブログ的・出囃子のここが一番エモい!
今回、出囃子について調べてみて、個人的に「音楽的に一番シビれたポイント」は、その演奏形態ある。
何よりエモいのが、寄席の出囃子では「リアルタイムの生演奏」ものもあるということだ。
舞台袖の上方にある「お囃子部屋(下座)」では、専門の女性演奏家である「三味線方(しゃみせんがた)」と、前座の落語家が務める「鳴り物方(なりものがた)」が、ステージの進行や演者の歩くスピードに合わせて、その場で生タッグを組んで演奏している。
彼らは単に楽譜通りに弾いているわけではない。その日の客席の空気感や天候に合わせてテンポや音の強弱を微調整している。これって、極上のライブ・セッション、あるいはDJがフロアの空気を見てBPMをコントロールする感覚そのものだ。ちなみに戦前の上方落語には、高座に上がらずお囃子の演奏だけに専念する「ヘタリ」と呼ばれる専門職までいたそうだ。
トラブル上等!? 現場で巻き起こるリアルなライブ感
生演奏の現場だからこそ、ロックフェスのような「現場のドラマ」も転がっている。
たとえば、地方公演などで地元の演奏家に下座を頼む場合。あまりにマニアックな曲や洋楽、ポップスを出囃子にしている落語家だと、現地のお囃子さんが対応できないことがある。その時は、誰もが弾ける超有名曲(『元禄花見踊』など)を「代用曲」としてその場で弾いてもらうルールがあるらしい。三遊亭小遊三のポップス出囃子『ボタンとリボン』が、地方では定番の『春はうれしや』に差し替わる、なんて話はまさにライブツアーの「現地アレンジ」のようで最高に面白い。
また、同じ寄席のプログラムの中で、たまたま同じ出囃子を使う落語家同士の共演がブッキングされてしまうこともある。過去には先代同士がそれで揉めた歴史的な因縁曲もあったそうだが、そんな時は、楽屋での話し合いによって一方が別の曲を代用してステージに上がるという大人の解決策が取られる。ステージ裏の、ヒリついた、それでいて粋なコミュニケーションが透けて見えるエピソードだ。
## まとめ:出囃子から入る落語の世界もアリかもしれない
通(つう)になれば、イントロの数秒が鳴っただけで「お、春團治が来た!」「柳好だ!」と客席がざわめき、拍手が湧き起こるという出囃子の世界。著名な名跡を襲名する際には、先代の出囃子を引き継いでファンをニヤリとさせる伝統もある。
「いつも同じように聞こえる」と思っていたその実態は、演者がこだわり抜いてリクエストした「勝負曲」であり、舞台袖の職人たちによる「一発勝負のライブ・セッション」だった。
6月5日の落語の日。もし、私と同じように「落語に興味はあるけど、何から聴けばいいか分からない」という音楽フリークがいたら、まずはYouTubeなどで「落語 出囃子 聞き比べ」と検索してみてはどうだろう。
「あ、この三味線のカッティング、めちゃくちゃグルーヴ感あるな」
「アニソンを和楽器でカバーするこのアレンジ、バンドのSEにしたいな」
そんな、音楽的な入り口から落語の世界に足を踏み入れてみるのも、大人の音楽ブログとしては大いにアリなんじゃないかと思っている。今年の夏は、少しだけ寄席のYouTubeなんかに耳を傾けてみよう。では最後は我らがホルモンの出囃子をご一聴。