あのGREEN DAY(グリーン・デイ)が15年ぶりに単独で来日公演を行うことが決定した。
かなり前から来日は示唆されていたが、遂に確定し日本のGREEN DAYファンはホッとしたことだろう。なんと言っても今回のみどころはニューアルバム「Saviors」だけではなく代表作の「Dookie」と「American idiot」の2枚がテーマとなっているところだ。現在ツアー中だが、そのセトリは当初この2枚を曲順どおりに演奏するという。その後ミックスされたバージョン(2025年1月現在)方式でも行われているが、来日公演時に同じようなセトリで行われるかわからないし、普通に新しいアルバムのツアーになるかも知れないが期待しながら待ってみたい。
さてこれらの作品を改めて聞いてみると、今の時代に聞いても名盤である。そこで今回も例のシリーズ「私的名盤」をやってみたいと思った。現代から見えるこの2枚のアルバムの形を探ってみたい。今回も同様、名盤考察とは大それたものではないが紐解いていければよいと思う。
それぞれの概要から。まずは「Dookie」。通算3枚目のスタジオアルバムは、メジャーデビューアルバムとなり1500万枚以上、2000万枚を超えて売り上げたといわれている。まさにポップパンクの最高峰とも言えるこの作品は1994年2月1日にリリースされ、30年もの間愛されている。収録楽曲は以下のとおり。
1.Burnout
2.Having a Blast
3.Chump
4.Longview
5.Welcome to Paradise
6.Pulling Teeth
7.Basket Case
8.She
9.Sassafras Roots
10.When I Come Around
11.Coming Clean
12.Emenius Sleepus
13.In the End
14.F.O.D.
シークレットトラック All By Myself
GREEN DAYの代表曲である「Basket Case」が収録されている超名盤だ。珠玉のメロディは往年のキッズたちの必須科目のような1枚。
続いては「American Idiot」の概要。発売は2004年9月21日で7作目のスタジオアルバム。こちらも20年経過しているが色褪せない。
1.American Idiot
2.Jesus of Suburbia
Ⅰ. Jesus of Suburbia
Ⅱ. City of the Damned
Ⅲ. I Don't Care
Ⅳ. Dearly Beloved
Ⅴ. Tales of Another Broken Home
3.Holiday
4.Boulevard of Broken Dreams
5.Are We the Waiting
6.St. Jimmy
7.Give Me Novacaine
8.She's a Rebel
9.Extraordinary Girl
10.Letter Bomb
11.Wake Me Up When September Ends
12.Homecoming
Ⅰ. The Death of St. Jimmy
Ⅱ. East 12th St.
Ⅲ. Nobody Likes You
Ⅳ. Rock and Roll Girlfriend
Ⅴ. We're Coming Home Again
13.Whatsername
このアルバムは21世紀になってもGREEN DAYは健在だということを示した1枚。刹那の衝動がパンクロックだというイメージを払拭するかのごとく世に問うた作品だと思う。方向性の多様性や少し低迷を感じさせた前作あたりから、彼らをパンクロックの原点へと引き戻した。パンク史上初のグラミー賞の最高賞「最優秀レコード賞」を「Boulevard of Broken Dreams」で獲得した。また、構成が組曲のような楽曲を含むため「パンクオペラ」と呼ばれることもあった。
まずはそれぞれのアルバムを現在から見た当時の流れを少し紐解いてみたい。「Dookie」がリリースされる前夜、1990年にはイラクのクウェート侵攻に端を発したアメリカ主導の湾岸戦争が勃発した。そのころからロック音楽シーンに衝撃を与えていたのはNIRVANA(ニルヴァーナ)に代表されるグランジだ。鬱蒼とした雰囲気が音楽シーンを席巻していたところへ、Lookout Recordsで成功を収めていた彼らのポップでメロディアスな音楽は飛び込んでいった。このアルバムが録音された1993年には世界貿易センターのビルでテロ事件が起こっていた。この話は2001年に起こったテロ事件まで続く出来事だ。その後2003年にまたもやアメリカはイラクとの戦争に突き進んでいった。陰謀論等うんぬんあるがここでは置いておく。とにかく今回のGREEN DAYの2枚には、アメリカの1990年代から2000年前後へと繋がるアジア・中東での戦争が起きたという時代背景があった。冷戦も終結し、新しい「敵」を見つけたアメリカをパンクロッカーなりに表現していたのかも知れない。
また、2枚を比較して感じること。まず「Dookie」はどこか無気力な部分を感じる。実際ドラッグに浸っていた時期で、勢いだけでやっていたそうだ。怒りではなくただなんとなくつまらない日々の中で気に入らないことをパンクロックで歌ってみた、といった感じだ。初期衝動としては間違っていないし、むしろこんな感じでポップでキャッチーなメロディが耳に飛び込んできたキッズたちが納得しないはずがない。
それに対して「American idiot」の頃には社会的にもバンドとしてかなり上の地位を手に入れ、下手なことは出来ないポジションにいた。その難しい立ち位置から見事な角度で切りつけてきたパンクロックは芸術品のような1枚のアルバムとなった。今回比較している「Dookie」のリリースから9年半、約10年の期間にもアルバムは出ている。それぞれ好みがあるものの名盤たちである。しかし、この「American idiot」はその間の作品たちとはひとつステージが異なるように感じる。
その他、個人的に気になった点。この2枚の面白い共通点は代表する2曲の衣装だ。
ギターボーカルのBillie Joe Armstrongの衣装が上下黒で半袖に「Basket case」は赤いストラップ、「American idiot」は赤いネクタイ。これが意図的なのか、オマージュであってもなくてもこの2枚のアルバムを繋ぐ何かを感じてしまった。ちなみに赤と黒の色の組み合わせは、グラフィックデザイン的には「刺激的」「力強さ」そして「挑発的」というイメージを持つといわれている。「Basket case」は力強さというよりはある意味少し刺激的な内容だ。「American idiot」は直接的な挑発に受け取れる。
「Basket case」はスラングで無気の人やノイローゼの状態という意味になる。また、自分ではどうにもならないという意味でもある。この作品を発表してしばらくしてBillieはパニック障害と診断された。恐らくこの曲を作っているときには既にその症状が発症していた可能性が高く、その「自分ではどうにもならない」不安な状態から生まれた曲だ。実際この曲の歌詞はなかなか興味深く、不安な状態を書き出したものや彼の性に対する複雑な状態を表している。彼のHeやSheの使いどころで全体の意味が大きく変わっており把握するには少し背景が必要になる。それを面白くてわかりやすく説明してくれているサイトがあったので詳細はこちらをご覧いただけるとありがたい。
先程写真で紹介したとおり「Dookie」の頃は赤いストラップが斜めにかかり、ネクタイがだらしなくかかっているように見える。また、ギターも背景の色と同化している。Billieが落ち着かない様子でキョロキョロとあたりを見回しながら歌う様子は、もちろんメンタル的な病の歌の世界観を表現しているとはいえ、どこか「アレ」な感じでパンクっぽい。
一方「American idiot」は2004年当時戦争へと突き進むブッシュ政権とそれに盲信的なバカなアメリカ国民への「あらがい」を表現していると考えられた。「られた」と表現したのは意味がある。バンド自体も単純に「あらがう」ステージではなかった。大物バンドとなっていた彼らは単なる体制批判ではなく、アルバム全体を通してリスナーに問いかけている。「バカなアメリカ人」というアルバムタイトルで煽っておきながらその実は政権の言うとおりこのまま突き進むのか?またはこのままでいいのか?を問うているのだ。全方位にあらがうという意味では実にパンクなアルバムといえる。赤いネクタイをまっすぐに鋭い視線をこちらにぶつけてくる。星条旗をバックに力強く演奏する様は、国家に抵抗する大人のパンクロッカーである。釈然としないキッズがあやふやな社会に反発していた「Dookie」より大人になっているのは頼もしい一面どこか寂しい気もする。
と、ここまで「私的名盤」2枚のアルバムの話をしてみた。結局内容に触れてないが、音は言われなくてもカッコいいパンクロックだ。現代から見えるこの名盤たちの素晴らしさをほんの少しでも感じていただけたらありがたい。私のブログは音楽に触れる「きっかけ」を作り出すために日々記している。今回の話でGREEN DAYの「Dookie」と「American idiot」を1回聞いてみようと思って頂ければこの上ない。